菟田へ
菟田(うだ)の 高城に 鴫(しぎ)罠張る 
我が待つや 鴫は障(さや)らず いすくはし 鯨障り 
前妻(こなみ)が 肴乞はさば 立稜麦(たちそば)の 実の無けくを 幾多聶(こきしひ)ゑね
後妻(うはなり)が 肴乞はさば 斎賢木(いちさかき) 実の多けくを 幾多聶(こきしひ)ゑね

鴫とりのわなを設けて俺が待っていると、鴫はかからず鷹がかかった
これは獲物だ!
古女房がおかずにくれと言ったら、中身のないところをうんと削ってやれ
若女房がおかずにくれと言ったら、中身の多いところをたくさん削ってやれ


イワレヒコさまが歌うと、みんなやんやの喝采。
今日は無礼講だ。
みんな、したたかに酔っている。

が、イワレヒコさまが、この歌を歌うやいなや、真っ青になって席を立った男がいる。
あれは、イワレヒコさまの皇子のタギシさま・・・?

タギシさまは、そのまま宴席を抜けて、ふいっと外に出てしまわれた。。
タギシさまの行く手を目で追っていた私は、ふと、シイネツヒコ殿と目があった。

私は、シイネツヒコ殿に近づくと、
「シイネツヒコ殿、タギシさまはどうされたのだ?
 私の饗応に、何か気に触るところがあったのだろうか?」
と、尋ねた。

「いや、そんなことはないと思うが・・・
 あの方は、真面目だからなぁ…
 こういう酒席は、あまりお好きではないのかも知れない。
 気にするな。」

いつも愉快で親しみやすいシイネツヒコ殿は、みんなの人気者だ。

「ところでシイネツヒコ殿。
 あなたのことを、ウズヒコと呼ぶ者もあるが、
 どちらが本当の名前なのだ?」

「私は、イワレヒコさまが日向を出発して間もなく、
 船が速吸の門にさしかかったとき、偶然イワレヒコさまと出会ったんだ。
 シイネツヒコは、そのときにイワレヒコさまが下さった名だよ。
 でも、なんだかご大層な名前だと思わないか?
 どうも、私には元のウズヒコの方が合ってるらしくて、
 今も、ウズヒコと呼ぶ者の方が多いんだ。
 当のイワレヒコさまだって、10回に7回は間違えてる…」

シイネツヒコ殿は、そう言って笑った。そして、
「弟猾(おとうかし)殿も、ウズヒコでよいぞ!」
と言った。

「そうか。
 じゃぁ、私もウズヒコ殿と呼ばせてもらおう。」

「タギシさまはなぁ、
 心根の優しい方ではあるが、進んで友人を作ろうとはなさらないんだ。
 私とは、妙にウマがあって、仲良くして下さってはいるが。
 タギシさまは、今も、離ればなれになった母君を思っていらっしゃる。
 多分、イワレヒコさまの、今のお歌に傷つかれたんだろう。」
と言った。



私は、タギシさまの後を追うでもなく、だが、外の風に当たりたくて館の外に出た。
なんといっても、今日の宴は、イワレヒコさまが我が国を奪ったことを祝う宴なのだ。
なのに、その宴を開いてイワレヒコさま一行を饗応しているのが、他ならぬ私。

イワレヒコさまは軍を率いて、突如として熊野の山中より姿を現した。
3本足の、世にも珍しいカラスに先導されて。
そして、私と、兄の兄猾(えうかし)に恭順を求めた。
国を譲り、我が軍に降れと。

兄は烈火のごとく怒った。
どこの馬の骨とも知れぬ田舎者のくせに無礼な、と。

そして、御殿に大きなからくり(落とし穴)を作った。
帰順したふりをして、一行をここへおびき寄せよう。
そうすれば、みんなそろって一網打尽だ!と、うそぶいた。

私は、兄の奸計をイワレヒコさまに密告した。
イワレヒコさまは、兄の卑劣な策を怒り、道臣とやらいう者を兄の御殿に遣わした。
道臣は、剣の柄を握りしめ、弓を引き絞って、兄を脅しながら、からくりの方へと追い込んだ。
兄は、とうとう自分で作ったからくりで命を落としてしまった。
道臣は、死んだ兄の遺体を引き出して、さらに切り刻んだそうだ・・・



「弟猾(おとうかし)殿?
 こんなところで考え事か?」

私は随分長い間物思いにふけっていたようだ。
不意に声をかけられ、驚いて、声の主を見ると、

「タギシさま?」
素っ頓狂な声が出た。
「タギシさまこそ、さきほどは真っ青な顔で宴席を抜けられ、
 心配していたのです。
 私の饗応がお気に召しませんでしたか?」

「そうか。私を追ってきてくれたのか。
 それはすまなかった。
 そなたのもてなしが気に入らなかったわけではないのだ。
 父上の歌を聞いたとたん、頭に血が上ってしまって…
 気を遣わせてすまなかったな。」

「いえいえ。
 父上様のお歌は、酒席の戯れ歌ですよ。
 決して、母君さまのことを揶揄なさっているわけではないと思います。
 あ、すみません・・・
 母君さまのことは、
 さきほど、ウズヒコ殿からうかがったのです。」

「そうか。
 父は、母をこの遠征には伴わなかった。
 もう二度とは帰らぬ地に、母を残した。
 でも、私はどこかで信じていたかったんだ。
 愛が冷めた故、母を残したのではないと。」

「優しい母君さまだったのでしょうね。
 そして、あなた様をこよなく愛して下さったんでしょうね。」
私は言った。そして、
「タギシさま。
 この度の私の裏切り、タギシさまはどう思われます?
 私は兄を裏切り、兄を死に追いやった。」

タギシさまは、急に話題を変えた私に驚かれ、
「私には分からない・・・
 私たちは、熊野の山中を彷徨い、
 頭八咫烏(やたがらす)の道案内のおかげで、
 やっとのこと、山中を抜け出した。
 が、すぐさま戦いに挑むには情報がなさ過ぎる。
 だから、そなたの帰順は有り難かった。
 それに、そなたの密告がなければ、
 そなたの兄、兄猾(えうかし)殿の奸計にはまるところであった。
 だが、一人の人間としては、
 なぜ、そなたが兄を密告したのか分からない…」
と言った。

「そうでしょうな。
 私と兄は母が違うのです。
 兄、弟といっても、年は1才も違わない。
 どちらがこの地を治めてもおかしくない。
 その上、私の母は、
 私を権力を掴むための手駒としてしか見ていなかったのです。
 はるばる日向から、いろんな国々を見て進軍してこられたあなた様から見れば、
 こんな小さな国と、父上の愛を独占せんがために、
 わが子を手駒に使い、
 兄弟の間に、憎しみしか植え付けなかった母は、さぞ滑稽に映るでしょうね?」

肉親同士が憎しみ合うということに無縁であったろうタギシさまは、声もなく、私の顔を見た。

「タギシさま。
 タギシさまが、そのように心優しい人に育ったのは、
 母君さまだけの愛情のおかげではありませんよ、きっと。
 父上様と母君さまの間に真の愛情があったからこそ、
 肉親は愛し合うものだということを知られたのではないですか?
 違いますか?」

「父上のお歌は戯れ歌か・・・」
タギシさまが、ほんの少し微笑んだ。
「だが、それにしても、どうしてそなたは兄の兄猾(えうかし)殿を裏切ったのだ?
 確かにそなたの密告がなければ、我々は兄猾殿の奸計にはまっていた。
 だが、我らが滅べば、この地はそなたたちの国のままだったはずだ。
 なのに、そなたは我らに帰順して、こうして宴を開いて歓迎している。
 なぜだ?」

「さあ・・・
 すべてをご破算にしたかったのでしょうか…
 私は、たった数ヶ月早く生まれたというだけで、
 この地を、そして私を支配する兄が憎かった。
 その私の憎しみをあおり、私を手駒にし、
 隙あらば兄を追い落とし、
 この地を奪わんとしている母も疎ましかった。
 しかも、その二人は、私と血を同じくする兄と母なのです。
 私は、こんな憎しみの輪の中から抜け出したかったのか…
 いや…分かりません…」

「そなたはそれで・・・
 それで、実の兄を、国を売ったのか?」
タギシさまは驚愕した。

私はその問いには答えず、
「ウズヒコ殿は、イワレヒコさまは素晴らしいお方だと言ってました。
 生涯を、命を託しても悔いのないお方だと。
 ウズヒコ殿は、楽しい人だ。
 私もウズヒコ殿に付き合うことにしましたよ。」
と、ことさら明るく言った。

タギシさまも、いつか、私のことを分かる日が来るだろうか?
私とタギシさまでは、育ちが違いすぎる。
そんな日が来ないことを祈りながら、私はタギシさまの澄んだ目に微笑みかけた。
( 続   く )
今回の語り手は、菟田の地を治める弟猾(おとうかし)さんです。
兄猾・弟猾兄弟が異母兄弟であることetc.は、ぱいんの妄想です〜
現代人であるぱいんは、血を分け合った兄弟が殺し合う…なんてことは、いくら妄想してもなかなか、その核心に触れることができなくて、結局こんな平凡な妄想になってしまいました〜(>_<)
権力とは、そんな美味しいものなんでしょうか…

<ぱいんのつぶやき>

ひぇ〜〜〜、
今回の冒頭のイワレヒコさんの歌は、
全女性を敵に回しかねないお歌でしたねぇ〜(^^ゞ

えっと、今回の物語の最後の部分では、
ちょっとタギシくんの今後の運命を暗示してみました。
書紀をお読みでない方は、タギシくんが、これからどんな運命をたどるのか想像してみて下さい。
また、すでにストーリーを知っておられる方は、まだ内緒にしていて下さいねー<(_ _)>
いずれにしても、ある意味愛の中で育ったタギシくんなのに、
その運命は、あまり明るいものではなさそうです…




和解  系図はこちら
「弟猾(おとうかし)殿ぉーっ」

すれ違った男に向かって、ウズヒコ殿が声をかける。
おいおい。
今は私と話をしてるところだぞ。
それに、私は兄猾(えうかし)殿の一件があるから、どうも弟猾(おとうかし)殿と顔を合わすのはばつが悪いのだ…
だが、そんなこと、ウズヒコ殿は斟酌しないよなぁ…?

「弟猾殿、
 久しぶりに、一緒に酒でも飲まないか?」
やっぱり・・・

振り向いた弟猾殿は、
「久しぶりなどと…
 明け方まで盛り上がったのは、つい一昨昨日のことではないか。」
と、こちらも笑顔で答える。

こいつは、すでに弟猾殿とも親しいのか…
なんと腰の軽い男だ。

声をかけられた弟猾殿は、ウズヒコ殿の隣にいる私を見て、
「こちらの方はどなたで?」
と、尋ねた。

「こちらは、道臣(みちのおみ)殿だ。」
なんのてらいもなく答えるウズヒコ殿。
だが、やっぱりというか・・・弟猾殿の顔は曇った。
「まあまあ、これからは、一緒に戦う仲間だ。
 道臣殿も、弟猾殿も、一度ゆっくり酒でも飲み交わして、
 今までの遺恨は水に流した方がいいのだ。」
と、ウズヒコ殿は言った。
私たちは、ウズヒコ殿の強引さに負けて、渋々頷いた。

確かに私も後悔はしてるのだ。
いかにその奸計に腹を立てたからにせよ、兄猾(えうかし)殿の遺体を、わざわざ、からくり(落とし穴)から引きずり出して切り捨てたのは、ちょっとばかりやりすぎだと。
その何とも言えない後味の悪さを、兄を裏切り国を売った弟猾殿の卑怯さを蔑むことで紛らわしていた。
ウズヒコ殿には分からないだろうが、だからこそ、弟猾殿の顔を見るのはばつが悪いのだ…

「道臣殿。」
語る言葉もなく、黙々と酒を飲んでいた私に、先に声をかけたのは弟猾殿の方だった。
「私は、道臣殿を恨んでなどいない。
 あなたは、為すべきことを為しただけだ。
 責められるべきは、私の卑怯さだ。」と。
それは苦渋に満ちた声だった。

私は思わず、
「いやいや。
 あなたのことは、タギシさまからうかがった。
 お国には、いろいろ事情もあったのだろう。
 いかに腹を立てたからといって、
 遺体に刃を向けることは忌むべき行為だ。
 我々に帰順の意を示してくれたあなたの名誉を傷つけた。
 どうか許してくれ。」
と、あれれ?
自分でも驚くほど素直に詫びの言葉が出た。

「はははははは・・・
 これですっきりしただろう、道臣殿?
 日頃脳天気なあなたが、あれ以来、
 妙に沈んでいたのが気になっていたのだ。」
何を言うやら、誰にも増して脳天気なウズヒコ殿が言う。

「ははは・・・
 ウズヒコ殿に、脳天気だと言われたら形無しだ。」

「言ったなぁ!
 さあ、飲もう飲もう!!
 弟猾殿も、自分のことを卑怯などと言うものではない。
 あなたが卑怯者であるか否かは、
 これから先、あなたの剣で示せばいいのだ。
 あなたの剣が、冴え冴えとした働きを見せれば、
 それは、神が兄猾殿よりあなたを選んだという証拠さ。」

「ふふふ。
 ウズヒコ殿らしい論理だ。
 なあ、弟猾殿、
 ウズヒコ殿は、やっぱり底なしの脳天気だと思うだろう?」

「まことに・・・
 だが、ウズヒコ殿と気の合う、
 我々二人もやはり脳天気者かも知れないなぁ…!
 ははははは。」

私たち三人は、すっかり意気投合し、明け方まで酒を酌み交わした。



数日後、私たちは、イワレヒコさまと一緒に、菟田(うだ)の高倉山の山頂で、遙か大和を展望した。
国見丘(くにみのおか)には八十梟師(やそたける)が盤踞していて、磐余邑(いわれのむら)には、兄磯城(えしき)の軍が満ちている。要害の地はすべて押さえられ、道路はふさがれ、通りようもない。

イワレヒコさまは、何かを決したように、敵軍を睨んでいた。

「なあ、弟猾殿。
 大和とは、誠に恐ろしいところだな。
 斬り伏せても、斬り伏せても、
 どこまでも敵軍が満ちている・・・」
私は、あれ以来、すっかり打ち解けた弟猾殿に言った。

「大和の磯城邑(しきのむら)には磯城の八十梟師が、
 高尾張邑(たかおはりのむら)には、赤銅(あかがね)の八十梟師がいる。
 ここの連中は皆、イワレヒコさまと決戦をする覚悟らしい。」

「さすがは弟猾殿。
 あなたは、地の利にも、この地の情報にも通じている。」

「いやいや。
 私が知っているのは、これが限度だよ。」

「だが、イワレヒコさまは、どんな小さな情報でも欲しいはずだ。
 せめて、このことだけでも、イワレヒコさまに奏上したらどうだろう。」

「私もそう思うのだが・・・
 なんといっても、私は新参者だからな。
 抜きん出るようなことをしたら、
 皆が快くは思わないだろう。」

「そんなことを気にしているのか?
 それを言うなら、ウズヒコ殿だって新参者だ。
 ウズヒコ殿は、何かと抜きん出たことをしているが、
 それを不快に思っている者などいないじゃないか。」

「ウズヒコ殿は、あのキャラだからなぁ…」

「まあ、そう気に病むなら、
 私も一緒に行こうじゃないか。
 多分、断っても、ウズヒコ殿も付いてくるだろう。」

「そうだな。
 私ももう少し、情報を集めておこう。」



翌日、私たちはイワレヒコさまのもとを訪ねた。
やはり、一緒に行くと言って聞かないウズヒコ殿も一緒に。
だが、果たして、この大軍を打ち負かす奇策はあるのだろうか…
( 続   く )
今回の語り手は、道臣(みちのおみ)さんです。
フツノミタマのところでも、ヤタガラスのところでも登場しましたよね!
奸計を思いついた兄猾を斬ったのも道臣です〜
本当に最近よく登場する人物ですが、今までは人の話のついでに出てきただけだったので、今回は語り手として登場させてみました。

相変わらすのウズヒコや、この章より登場の弟猾と共に、なんだか男の友情話のようになっちゃってますね〜(^^ゞ 言うまでもないことかも知れませんが、この三人の会話は、すべてぱいんの妄想ですのであしからず・・・

<ぱいんのつぶやき>

まあしかし、右をみても左をみても男ばっかりですね〜(>_<)
美しい姫や、心ときめくロマンスはいったいどこに・・・
ぱいんと同じで、ロマンスを求めて読んで下さっている方!
申し訳ありません〜<(_ _)>
まだしばらくは、この男臭いお話が続きそうです!!




天香山 系図はこちら
「ちょっとウズヒコ殿ぉ…
 本当にこの格好で天香山(あまのかぐやま)まで行くので?」

「当たり前じゃないか!
 何をそんな情けない声を出しているのだ?」

私はため息をついた。
自信たっぷりに秘策があるなんて言うから、いったいどんな策かと思ったら、トホホ・・・



数日前、我れら軍の主な者はイワレヒコさまと共に菟田(うだ)の高倉山の山頂で大和を展望した。大和には敵軍が満ちあふれ、要害の地はすべて押さえられていた。

翌日になって、私と道臣(みちのおみ)殿、そして無理矢理ついてきたウズヒコ殿の3人は、イワレヒコさまの前にまかり出た。

「イワレヒコさま。
 大和の磯城邑(しきのむら)には磯城の八十梟師(やそたける)が、
 高尾張邑(たかおはりのむら)には、赤銅(あかがね)の八十梟師がおります。
 ここの連中は皆、イワレヒコさまと決戦をする覚悟とみえます。
 これを突破するのはたやすいことではありません。
 迷信とお笑いになるかも知れませんが、
 天香山(あまのかぐやま)の埴土(はにつち)を取って、
 それで天平瓮(あまのひらか)作り、
 天社(あまつやしろ)、国社(くにつやしろ)の神々をお祭りなさいませ。
 さすれば、賊を征伐し平定する道が開けるはず。」
私は言った。

「おぉ…弟猾殿、それは誠か…!」

イワレヒコさまは、たいそう驚いたように私を見た。そして、

「実は、私は昨夜、誓約(うけい)をして眠ったのだ。
 大和を埋め尽くす敵軍を討つ秘策を授け給えと。
 夢の中には、天神アマテラスさまが現れた。
 そして驚いたことに、
 そなたが申したことと同じことを、おっしゃったのだ。」

「そのような不思議なことが・・・
 では、確かにそれは敵を討つ秘策なのでございましょう。
 が、道いっぱいに駐屯する敵の目を欺いて、
 天香山(あまのかぐやま)に行くのは、
 たいそう困難なことだと思われます。」
道臣(みちのおみ)殿が口を挟む。

「イワレヒコさま。
 それについては、私に秘策がございます。 
 どうか、我々にお任せあれ!
 見事、天香山(あまのかぐやま)の埴土(はにつち)を取ってきてご覧に入れましょう。」

自信たっぷりに言うウズヒコ殿に、みんなの視線が集まった。

「ウズヒコ。
 い、いや、シイネツヒコ。
 いったいそれはどんな秘策だ?
 申してみよ。」

「言わないから秘策なんじゃないですか、イワレヒコさま。
 先をお急ぎでしょうが、
 1週間ばかり、我々3人に時間を下さいませ。
 必ずや仰せのままに致しましょう。」

「そうか・・・
 分かった。任せよう。」

ウズヒコ殿の気迫に押されたように、イワレヒコさまは頷いた。



「ウズヒコ殿。
 あの敵軍を突破する秘策とはどんな策だ?」
イワレヒコさまの元を退出した私は、早速急き込んで訊ねた。

「秘策?
 そんなものはこれから考えるのさ。」

「えぇぇぇーっ、ウズヒコ殿。
 貴殿は、何の考えもないままに、あんな安請け合いをしたのか?」
道臣殿も、男にしては妙に甲高い声で叫んだ。

「だって、イワレヒコさまの誓約(うけい)が外れるはずなどないじゃないか。
 ってことは、きっと秘策はあるはず。
 あと1週間もあるのだ。
 その間に、私たち3人で考えれば、きっとグッドアイディアも浮かぶさ。」

何とお気楽な・・・

それから1週間どころか…
もうその翌日には、いい策が浮かんだと言って、ウズヒコ殿が飛び込んできた。
その策というのが、このトホホの策なのだ…



「なあ、誓約(うけい)ってカッコいいよなぁ〜
 この間、イワレヒコさまから誓約(うけい)の話をうかがって、
 私も早速やってみたのだ。へへへへへ」

「へ〜、いったいどんな誓約(うけい)だ?」
私は自分の格好があまりに情けなくて、ウズヒコ殿の誓約(うけい)の話になどに乗る気にもならず、それでも仕方なくたずねた。

「おぉ、聞いてくれるか?
 私は神にこう言ったのだ。
 『イワレヒコさまが本当にこの国を統一することがおできになる者ならば、
  行く道は自然に通れるだろう。
  反対に、もしご平定の事業が不可能なものならば、
  賊軍に妨げられよう』と。
 だから、敵軍に向かって、まっすぐに道を進んでいくぞー!」

「ほいほい。」
もう私はどうにでもなれという気持ちで、ウズヒコ殿に頷いた。

「よ〜〜〜し!
 おっとぉ…これじゃ、元気よすぎだなぁ。
 なんといっても、私は今日はじいさんだもんな。」

ウズヒコ殿は、急に腰をかがめて、しわがれ声で、

「さあ、ばあさんや。
 出かけるぞ。
 用意はいいかな?」

と、もうノリノリで私に言った。
そうなのだ。
私とウズヒコ殿は、敵軍を欺くために、じいさんとばあさんの扮装をしているのだ。
これが、ウズヒコ殿のトホホの策なのだ。



「わっはっはっは。
 なんて汚らしいじじい、ばばあだ。」

敵軍はみんな道をあけた。
私たちは無事に山に着き、土を持ち帰った。

「ばあさんや。
 よかったのぉ〜」

まったくもう…
いつまでやっているのやら…

さんざんな目にあったウズヒコ殿の策だったが、持ち帰った土を見て、イワレヒコさまは、それはそれは喜ばれた。
そして、早速その土で、天平瓮(あまのひらか)を作り、天神地祗を祭られた。
( 続   く )
やってくれますねー、ウズヒコくん。
今回のお話では、さんざんに笑っていただけたのではないでしょうか。
でもこれって、ぱいんの妄想じゃないんですよ〜(^^ゞ
この段は、ウソだろうと言われそうですが、ほとんど書紀通りなんです〜!
まあ、ウズヒコくんが、イワレヒコさんにはったりをかましたところだけは、ぱいんの妄想ですが。
(ちなみに、今回の語り手は、弟猾(おとうかし)さんです。)

ウズヒコくんが爺さんで、弟猾さんが婆さんてことは、ウズヒコくんは大柄で、弟猾さんは小柄だったってことでしょうか? そのどちらでもなかった道臣さんは、ほっと胸をなで下ろしたことでしょうね♪

<ぱいんのつぶやき>

高天原のオモイカネさま、タカミムスヒさまが登場しなくなってから、
すっかりお笑いから遠ざかり、
大阪人のぱいんは、少し淋しい思いをしておりました。
今回のお話は、ぱいん自身、ノリノリで書かせていただきました〜(^O^)


= 語句説明 =
天平瓮
(あまのひらか)
平らな土器




饗宴 系図はこちら
「わ〜〜〜い!
 イワレヒコさま、魚たちが見事に浮かんでますよ〜
 うわぁー
 こんなにたくさんの魚が浮いてるのは初めて見たなぁ。
 イワレヒコさまのおっしゃったとおり、
 川を落ち葉が流れているようですよーっ」

いつも通りのウズヒコ殿の明るい声。
イワレヒコさまは、誓約(うけい)をなされたのだ。

天香山(あまのかぐやま)から取ってきた埴土で作った土器(かわらけ)を川に沈め、
『もし魚が大小となく、すべて酔って流れる様子が、
 まるで、落ち葉が川を流るるごとくであったなら、
 私は必ずこの国を平定することができよう。』
と、おっしゃって。

誓約(うけい)は、単純で、その可否がはっきり目に見えるものであればあるほど盛り上がる。
大小の魚が、浮かんで流れる様子に、皆の士気は否が応でも高まるのだ。
土器(かわらけ)を作った埴土は、敵陣のまっただ中を通ってウズヒコ殿が持ち帰ったもの。
たまたま目があったウズヒコ殿に会釈を返し、私はそっとその場を離れた。



川縁を離れ、木立を行くと、私のお気に入りの場所に出る。
なんでお気に入りかって?
ここは、一人になれるところだから。

私はきつく結った髪をほどいた。
黒髪は、まるで生き物のように、私の背を覆う。

「まるで別人だな。
 髪をほどくと、そなたは女になる。」

「・・・イワレヒコさま・・・!?」

「どうして、そんなにも美しい姿を隠している?」

美しい?
私は女にしては伸びやかすぎる姿態に目をやり、ため息をつく。

「イワレヒコさま。
 いつから私が女であることに気付いておられたのですか?」

「ははは・・・
 心配せずとも、他の者は誰も気付いてはおらぬ。
 私もつい先頃、
 ここでそなたの姿を見るまでは、
 そなたが女であるなどとは思いもしなかったぞ、道臣(みちのおみ)」

「イワレヒコさま。
 このことは皆には・・・」

「分かっている。
 私は、そなたが男であろうが女であろうが、
 そんなことはどうでもよい。
 そなたが私の役に立つ人物であったらな。」

「私は男ですよ、イワレヒコさま。
 これからも、この剣で、
 あなた様の東征の道を切り開いて参りましょう。」

「そうだ。
 いよいよ出陣だ。
 が、その前に、私は祭礼を行いたいと思う。
 私自身が天神タカミムスヒさまの憑代(よりしろ)となり、
 この度の戦の戦勝を祈るのだ。
 ついては、そなたに斎主を務めてもらいたい。」

「私が…ですか?」

「そうだ。
 斎主として、厳媛(いつひめ)の名も与えよう。
 祭の日は、乙女の姿で私の前に現れてもらいたい。
 なに、みんな気づきはしない。」

あまりに近くから聞こえたイワレヒコさまの声に驚いて顔を上げると、生暖かい息が額にかかり、イワレヒコさまは、そっと私を抱き寄せた。



祭も無事終わり、イワレヒコさまは出陣した。
斎主である媛が私であったことは、誰も気付かない。
早々に女の装束を脱ぎ捨てた私は、得意の剣にものをいわせて、次々と敵をなぎ倒す。
女の格好など面倒だ。
私にはこれが一番性に合っているのだ!

が、敵は圧倒的な数で私たちを押し返し、緒戦の日は暮れた。

その夜、私はイワレヒコさまの密命を受けた。

「道臣(みちのおみ)よ。
 そなたを見込んでの命だ。
 そなたは、大来目(おおくめ)らを率いて、
 忍坂邑(おしさかむら)に地室を作れ。
 そこで饗宴を開き、敵を誘い込んで殺すのだ。」と。

私は、一瞬、唖然とした・・・。そして、
「身を売れと?
 私に女を利用せよとおっしゃるのですか!」
と、恐れ多くもイワレヒコさまに向かって叫んだ。

「剣を持って戦うだけが戦じゃない…。
 これは、我が兄、イナヒ殿の言葉だ。
 なにも戦うのに、女だ男だとこだわることはないのではないか?
 利用できるものはすればいいのだ。」

「・・・・・」

「なにも身を売れとは言っていない。
 方策は自分で考えるのだ、道臣。
 そなたを見込んでの命だ。
 思う存分働くがよい。」

そう言うと、イワレヒコさまは、私の肩に手を置いたが、その手で私を抱き寄せるようなことはせず、私の目を見て頷くと、そのまま部屋を立ち去って行かれた。
なぜだか分からないが、私は物足りない思いでイワレヒコさまを見送った。



私は軍に付き従っている女たちのうち、選りすぐりに美女を集めた。
そして気は進まなかったが、私自身も入念に化粧した。

地室を作ると、奥に大来目(おおくめ)の強兵を待機させ、彼らの姿を隠すために色とりどりの領巾(ひれ)を垂らし、さかんに楽を催した。
陣中のこと、女に飢え、退屈しきっていた男たちを次々と地室に誘い込むことは簡単だった。

私は大来目(おおくめ)らに命じた。
「酒宴が真っ盛りになったら、私が立ち上がって歌う。
 お前たちはその歌を聞いたら、
 一斉に敵を殺せ。」と。

そして、私は女たちと共に、敵に酒を勧めた。
敵は座について、宴はたけなわになった。
やがて、敵はすっかり油断して酔っぱらっていった…

頃は良しと見た私は、つと立ち上がり歌った。

忍坂の 大室屋に 人多に 入り居りとも 人多に 来入り居りとも みつみつし
来目の子等が 頭椎い 石椎い持ち 撃ちし止ましむ
忍さかの大きい室屋に、敵軍が多数入っているが、入っていてもかまいはしない。
来目の子等の剣で打ち負かしてしまおう

この歌を合図に、兵士たちは、一斉に剣を抜き、一時に敵兵を討ち伏せた。
( 兄猾・弟猾 完 )
おぉ・・・びっくりですね〜(^^ゞ
今回の語りは道臣さんだったんですけど、道臣さんって女だったんですねー
本当にびっくりですー(@_@)
この、あまりに大胆すぎる妄想は、イワレヒコさんが道臣に「厳媛」の名を与えたところから思いついたんです〜
えーーー? 男に媛なんておかしいわーって。
この妄想が当たっているかどうかは分かりませんけど、なかなか衝撃的な内容で、少しは暑さも吹っ飛んだんじゃないでしょうか。
あ、そうそう、イワレヒコさんと道臣のラブシーンについては、ぱいんの妄想ですのであしからず〜

前回、お婆さんの役が、道臣ではなく弟猾さんだったってことは、男である弟猾より、女である道臣の方が背が高かったというわけで・・・。ということは、道臣さんって、長身の美女だったんですね☆

<ぱいんのつぶやき>

なんだか、イワレヒコさんのキャラが微妙に変わってると思いません?
肝心のイワレヒコさんのキャラがつかめないー!
と、今まで散々愚痴ってきたぱいんですけど、
やっぱり、まだそのキャラはつかめてません…

「兄磯城・弟磯城」に続く


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