「姫、玉依姫。
もう話してくれてもいいでしょう?
ほら、私はもうこんなに大人になった。」
二人きりの褥の中、ウガヤさまの指が私の素肌をなぞる。
「あなたがいつも大切にしている鏡、
あの鏡はなんなのです?」
陶酔が私に一瞬の死を与える。
落ちていく快楽の中で、私はあの日のことを思い出す。
***** ***** ***** *****
「さあ、私にも抱かせておくれ。」
山幸彦の声。
私は腕の中の、まだ生まれたばかりのウガヤさまを抱きしめる。
「どうしてそんな怯えた顔をするのだね、玉依姫。
その子は私の子だよ。
私の大切な鏡を受け継ぐ者だよ。」
「我が君さま。
私にも、御子様を見せて。
私たちの子を。」
産褥から、疲れた、でも満足そうな姉の声。
「私たちの子?
はっはっは・・・
私たちの子だって?
その子は私の子だ。
私が父から受け継いだ鏡を伝える子だ。」
「義兄さま、なんてことを言うの?
お姉さまがどんな痛みの中で、
この子を生んだか、見ていたでしょ?
どうしてそんなひどいことが言えるの!」
「女が産をするさまは、
まるでワニがのたうっているようだな。
なんて醜いのだ。」
義兄は、口をゆがめて笑う。そして、
「こんな美しい子を産んでくれてありがとうよ、豊玉姫。
これで、そなたの用はもうすんだんだよ。」
いとも優雅にほほえむ義兄、いや、山幸彦。
あっけにとられている姉の首に山幸彦の手が伸びる。
まるで、愛撫をするように・・・
「義兄さま、やめて!
お姉さまから手を離して!
でないと、
私はこの御子様をくびり殺してしまいますよ。」
私は生まれたばかりのウガヤさまの首に手をかけた。
「さあ、お姉さま逃げて。
海の宮へ戻って、
そして、海と陸の間の道を閉じてしまって!」
「でも、御子さまは、御子さまは・・・」
「大丈夫。
御子さまは、私が守ります。
さあ、早く!!」
***** ***** *****
私は姉が出て行ったのを見届けると、山幸彦に言った。
「さあ、義兄さま。
その鏡を私にちょうだい。
御子さまと鏡は私が守ります。
御子さまは、義兄さまのような人には育てないわ。」
「ははははは。
面白い。
そなたのような子供が、子供を育てるだって?」
山幸彦はにやりと笑うと、腰の剣を抜いた。
「義兄さま、御子さまは私の手の中よ。
義兄さまの剣が私を貫く前に、
この御子さまの命は消えてしまうわ。」
「子など・・・」
「義兄さまだって、お分かりのはず。
これから義兄さまが幾たりの妻をめとり、
幾たりの子をもうけても、
この御子さま以上のお子は生まれないわ。
この御子さまは、鏡を受け継ぐべきお子です!」
山幸彦は剣をおいた。
「そなたの言うとおりだ、玉依姫。
天神から賜った鏡を受け継ぐべきは、その子一人。
ははははは・・・面白い!
そなたが育てるのか、御子を。」
***** ***** *****
山幸彦は去った。
私は、兄や弟に打ち勝ち、鏡を受け継ぐ唯一の者となった。
そして、その鏡を我が子に伝える。
私の役目はこれで終わったのだ・・・
そう言って。
***** ***** ***** *****
私はすべてをウガヤさまに話した。
私は、あなたに愛の中だけで育って欲しかったのだと。
「じゃあ、私たちは、愛の中だけで、
その鏡を受け継ぐ者を生み出し、
そして、愛の中だけで、その子を育てよう。」
ウガヤさまは、そう言った。
私たちは、4人の子をもうけた。
彦五瀬命(ひこいつせのみこと)、
稲飯命(いなひのみこと)、
三毛入野命(みけいりののみこと)、
そして、イワレヒコを・・・!
( 神代下 完 )
今回も語り手は、玉依姫ちゃんです〜♪ 前回誕生のウガヤくんが結婚できる年齢に達しているというわけですから、年齢的には、ウガヤくん16才、玉依ちゃん28才というところでしょうか。 なんだか、我ながらすごい展開ですねぇ・・・ 殺人未遂者続出ではないですかっ! でも、ご安心下さい・・・ 残念ながら、今回もぱいんの完全妄想(暴走)書紀でした…(笑) 書紀では、ウガヤくん、叔母の玉依姫を娶って、4人の子供が生まれる・・・と、記載されているだけです! たったそのことだけから、こんな妄想をするなんて、 私って、あと一歩で、妄想癖として病院に運ばれちゃうかも〜 山幸くんが、出産間もない豊玉ちゃんに言った、 「女が産をする様は、ワニがのたうっているように醜い」という言葉、 女性ならどなたも、「え〜〜〜!?」とお思いになったでしょうね。 書紀では、 豊玉ちゃん、出産に際して、「私がお産しているところは決して覗かないで。」と山幸くんに頼みます。が、豊玉ちゃんが心配だったというか、ちょっとした興味に駆られてというか、山幸くんは産室を覗いてしまうのです。 すると、そこにはワニに化身した豊玉ちゃんが…!(きゃぁ〜!!) 豊玉ちゃんは、恥をかかせた、約束を守らなかった…といって、山幸くんを猛烈に責めます。そして、怒って、山幸くん、ウガヤくんを置いて、海の宮に帰ってしまった、とあります。 なので、ここも、ぱいんの完全妄想(暴走)書紀です〜〜〜(^^ゞ でも、ドラマティック日本書紀の山幸くんなら、いかにも言いそうなセリフだと思いませんか?(へへへ) と、なにはさておき、これで、陸と海の道は完全に閉ざされてしまった! と書紀には書いてあります。これ以後、海の宮を訪れることができたのは、浦島太郎さんだけでしょうか…(笑) これで、めでたく「神代下」は、完結です〜♪ 次回からは、イワレヒコ=神武くんの活躍を楽しみにしていて下さいね! 神武くんは、日本の初代天皇なんですよ〜!! |
<ぱいんのつぶやき> ほんのちょっとなまめかしいシーンを描きたくて、 自分では、かなりなまめかしくなったぞ!と、自画自賛の冒頭部分、 友達のAちゃんに見せたら、 「全然ダメよ〜! どうせ書くんなら、もっと書かなきゃ!!」 と、叱られてしまってガックリ… 皆さまはどう思われます? 今回も、弥生ちゃんに挿絵を描いてもらいました。 挿絵という性質上、ここにあるのは小さく縮小した画像です。 本物は「桜絵巻」に収録していますので、 ぜひぜひ、そちらの方もご覧下さいませ〜〜〜<(_ _)> 玉依ちゃんとウガヤくんのイラストは、 白鳳さんからもいただいてます。 お時間のある方は、こちらもどうぞ〜♪ |
( 初代 神武天皇へ続く )