「しっかし、おエラい人のやることは分からんなー
こんな大きな墓を作ってどうするつもりなんだ、全く。
死んじまったら、土の中で骨になるだけじゃないか…。」
オレは毒づき、誰へともなく呟いた。
田んぼの手入れだけでも大変なのに、墓作り人夫に駆り出されるなんて、本当にエラい人間のやることは分からんねー。
「それよかさー、おまえ知ってるかい?
この墓は、昼は人間、夜は神が作るんだとさ。」
隣で作業していた男が小声で話しかけてきた。
「はあ〜?」
コイツは、やけに情報通だが、その分、眉唾の話も多い。
「ところで、この墓の主となるのは、いったい誰なんだい?」
「聞きたいか?」
こいつの話に易々と乗るのはシャクだが、こんな大きな墓に眠る貴人に興味をそそられ、オレは思わず頷いた。
「ほら。手を動かしながら聞きなよ。
お役人がこっちを見てるぞ。」
オレたちは、さも仕事をしているように装いながら、ヒソヒソと話を始めた。
「おまえも、モモソ姫さまのことは知ってるだろ?」
「現大王の叔母さまだろ?
雲の上のお方だ。
もちろんお顔を見たことはないが、名前くらいは知ってるさ。
先年、ご結婚なさったはいいが、つい先頃、身罷られたのだろ?
そうか…なるほど。
墓の主はモモソ姫さまか…!」
「その姫さまのご結婚だが、お相手を知ってるかい?
三輪山の神さま、大物主(おおものぬし)様なんだぜー」
「へ?
大王家の姫さまは、神さまと結婚なさるのかい?」
「ところがだ、神さまは夜だけやって来て、姫さまは夫の顔を見ることもできない。」
だんだんヤツはノッてきて、声もデカくなり、役人がこっちを睨んでいる。
だが、役人も、上つ方のスキャンダルには興味をそそられるらしく、聞き耳を立ててる様子が見て取れる。
「で、姫さまはどうしたんだい?」
「姫さまは、こう言ったそうだ。
『どうぞ、朝までここに留まっていて下さい。
明朝、謹んで美しいあなた様の姿を拝見いたしましょう。』と。」
妙なシナを作ってヤツが言う。
コイツがやったって、気色が悪いだけだが。
「で、神さまは姿を現したのかい?」
「神さまは、姫さまを腕に抱きながら、こう言ったそうだ。
『あなたの言うことはよく分かった。
私は、明朝、あなたの櫛笥に入っていよう。
だが、どうか、私の姿に驚かないでくれよ。』と。」
「櫛笥に?」
話はいよいよ佳境になり、周りで作業している者も、役人さえもが、ヤツの話に聞き入る。
「そうだ。姫さまも、神さまの言葉はいぶかしく感じられたそうだ。
そこで、朝になるのを待ちかねて、櫛笥の中を見たところ…」
ヤツは、みんなの効果を狙うように言葉を切った。
オレは、唾をゴクンと飲み込んだ。
「櫛笥の中に入っていたのは、実に美しい小さな蛇だったそうな。」
「へ? 蛇?」
「そうだ。姫さまは驚いたろうなー
大きな悲鳴を上げ、後ずさったそうだ。」
「そりゃ、そうだろうなー
昨夜も契った相手が、蛇だったんだもんなー」
「だがな、この話には、まだ続きがあるんだぜー
櫛笥に入っていた小さな蛇は、姫の悲鳴を聞いた途端、たちまち人の姿になって、姫に言ったそうだ。
『あなたは私に恥をかかせた。
私は報復として、あなたに恥辱を加えるだろう』と。
そうして、大空を舞って、三輪の山に帰って行ってしまったそうだ。」
「そりゃ、神さまの言い分も分かるが、姫さまだって驚かれるだろうよ。
だけど、姫さまも後悔したろうなー
思わず悲鳴を上げてしまったばかりに、夫君から、ひどいことを言われて。」
そこで、ヤツはニヤリと笑った。
「なんだよー
なんで笑うんだよー」
「そうさ。姫さまは後悔したさ。
後悔して、三輪の山を仰ぎ見ながら、その場に倒れ伏したそうだ。」
「お気の毒に…」
「だがさ、その姫さまが座り込んだところに、一本の箸が突っ立っていてさー
その箸が、姫さまの陰部に突き刺さって、それで姫さまは薨じられたそうだ。」
「はあ〜?」
そんなところに箸など、まっすぐに突っ立っていてどうする!
やっぱり、こいつの話など、まともに聞くんじゃなかった。
最後は、下卑た下ネタ話で、チャンチャン!か?
だがなぁー、この墓を、役人たちが「箸墓(はしはか)」と呼んでることも事実。
そもそも、神さまと結婚すること自体、オレたちには考えられんことだもんなー
オレたちの想像もできない雲の上のお方たちには、そんなこともあるのかもしれないなー
それにしても姫さまは気の毒だ。
ヤツの話を聞いた者は、みな、なにかを思ったはずだが、口に出すのはあまりにもはばかられて、誰一人口を開こうとせず、オレたちは、また黙々と、墓作りの作業に戻った。
( モモソ姫の結婚 完 )
| とても不思議なお話ですねぇ。 ここは、誰を語り手とするかで随分悩んだんですけど、姫さまや神さまとは直接関係のない、姫さまのお墓である『箸墓(はしはか)』を作っている人夫たちに語ってもらいました。 それにしても情報通な人夫。 彼の話は、何処まで真実なんでしょうねー(^^ゞ 今回のお話は、語り手はともかく、お話自体は、書紀に書かれている通りです。 どうして、書紀にこのような逸話が挿入されたのか… 箸が陰部に刺さって、それで亡くなるなんて、気の毒というか、ブラックジョークというか…このお話がどのような意図で描かれたのか、おバカなぱいんには全くの謎ですが、人夫たちが語っているように、いにしえの高貴な方には、本当にこんな出来事があったのかもしれませんね☆ いや、あってはえらいことですが…。 今回は、久々に弥生ちゃんのイラスト付きです♪ 挿入のイラストは、本来のイラストを一部切り取ったものです。 ホンモノのイラストは、『桜絵巻』で、お楽しみ下さい! イラストをクリックしていただければ、該当のページにジャンプします〜(^^) |
「夢占い」に続く