しめやかな密談
稚彦(わかひこ)はまだ戻らぬのですかっ?」
母上の声が聞こえる。
いつもの母上とは違う、苛立ちや怒りを含んだ声。

「雉(きじ)を派遣して問責されてはいかがかと。」
こちらは、オモイカネ殿の声。

母上も、いつも頼りにしているオモイカネ殿の前では、
ついつい本音やわがままが出るのだろう。

だが、母上の怒りは当然といえば当然のこと。

葦原中国(あしはらなかつくに)は、
 我が御子が君主たるべき国である。
 しかし暴悪な邪神たちがいる様子。
 お前がまず行って平定せよ。」

そう命じられた稚彦が、中国(なかつくに)に降りたのはもう8年も前だ。

母上から、天鹿児弓(あまのかごゆみ)と天真鹿児矢(あまのまかごや)を下賜されて、
得意満面、颯爽と降りていった美しい稚彦の姿は、
ここ高天原(たかまがはら)の神々なら、
誰だって昨日のことのように覚えている。
今度こそ、中国(なかつくに)は平定されるだろう…!
誰もがそう思った。今度こそ…!!

中国の平定は困難をきわめている。

オモイカネ殿の父上、母上と並んで高天原最高神であるタカミムスヒ様が、八百万(やおよろず)の神と協議して、最初に派遣したのは、我が兄、天穂日命(あまのほひのみこと)だった。

顔も見たことのない父ではあるが、たいそう勇敢だったという父スサノオの気性を最もよく受け継いだと評判の兄だった。
武勇にすぐれ、恐れを知らぬ兄であった。
だが、どうしたことか、兄はオオアナムチ神におもねり媚ついて、3年たっても高天原に復命しなかったのだ…どうして!?

そこで、兄、天穂日命(あまのほひのみこと)の子である武三熊之大人(たけみくまのうし)を派遣したが、この神もまた、父である天穂日命に従って、とうとう復命を果たさなかった。

そのあと、満を持して派遣したのが、稚彦だったのだ。
が、彼もまた、勇んで出陣してから8年もたつというのに、
未だ、復命は果たしていない。

それは、母にとっても、タカミムスヒ様にとっても、高天原にいる八百万の神すべてにとっても、由々しき出来事…

だが、私はひそかに、稚彦がこのまま復命しないことを祈っている。

稚彦が復命したら・・・
母上の長子であり、神々から最も愛された我が兄、オシホが、葦原中国(あしはらなかつくに)の君主として、地上に降りていくのだ。

天津彦根(あまつひこね)よ。
 私はどうしても、地に降らねばならないのだろうか…?
 助けてくれ。私は怖いんだ…」

いつも繰り返される兄の繰言。
透けるような白い肌。輝く美貌。
太刀など握ったこともない女のような柔らかい手。
こんな兄が、荒々しい邪神が住んでいるという地界で、
果たして、無事やっていけるのだろうか。

兄にとっては、ここ高天原で、神々に愛でられて穏やかに過ごすことが幸せではないか。

母上は、最も愛する長子、ほのかに父スサノオの面影を残しているという、兄オシホを、輝かしき地界の王にするため奔走している。
それが、その栄光が、兄に与えうる最高の栄誉だという考えを捨てない。
私の忠告になど耳も貸さない。

「では、それでよろしいですかな、アマテラスさま。」
オモイカネ殿の声で、私はふと我に返った。

「そなたの申すとおりにしましょう。
 8年も復命がないということは、地界で何か異変があったに違いない。
 雉(きじ)を派遣して、稚彦に問責させましょう。」

母上と、オモイカネ殿の、ひそやかな密談は終わったようだ。

そして、私の想い、兄の想いをよそに、雉(きじ)は地界へと放たれた…!
( 続   く )


今回のお話の語り手である「天津彦根命」ですが、書紀では、「神代上」の「うけい」のところでその名が見えるのみで、お話には一切登場しません。
が、今回、「だぁれぇにしよーかな〜♪」で白羽の矢が立ったのが彼でした。
案外ストーリーに関係している人を客観的な語り手にするのは難しいのです。
ちなみに、オシホが輝く美貌であったかどうかは分かりませんが、どうも書紀を読んでいると、気の弱そうな覇気のない人物に思えてきます…

注) 今回のお話は、『書紀本文』と『第一の一書』の内容をミックスしたような展開になっています。
<ぱいんのつぶやき>

「神代下」からは、登場人物も増え、
華やかな展開になるのはいいんですが、
登場人物が多い分、覚えるのが大変ですよね。
(ぱいんもそうです…)
だから、なるべく物語の主要人物は名前をはしょって、
カタカナ表記にしております。
正式名称は、用語集にてご確認ください。(^。^)



やってきた雉
「なぜ、そんな悲しそうなお顔をなさっているのですか?」
私は、愛する夫、稚彦さまに問うた。

「下照姫よ。何を愚かなことを…
 そなたのような美しい娘を得て、
 悲しい顔などするわけがないではないか。
 私は幸せだよ。」
いつものように答える夫。

天鹿児弓(あまのかごゆみ)と天真鹿児矢(あまのまかごや)を携え、美々しい戦装束を身に付け、父オオアナムチ神のもとに訪れた稚彦さまを見て、私は一目で恋に落ちた。
そして、私たちは愛し合った。
稚彦さまは、もう、高天原(たかまがはら)には復命しないと誓ってくれた。

「オオアナムチ殿の娘であるあなたを娶った私が、
 ここ葦原中国(あしはらなかつくに)を支配したらいいのだ!!」

力強く言揚げをしてくださったあの日から、もう8年の月日が流れた。
それはそれは幸せな月日ではあったけれど、
どこか、その幸せは、もろい砂の上に建った楼閣のように思えた。

そんな私の気弱い心が、稚彦さまに投影しているからかしら…
いつも、稚彦さまのお顔が、悲しそうに見えるのは。

私さえ、心を強く持ったら、この幸せは永遠に続くのかしら…?

でも…
でも…やっぱり悲劇は起こってしまった。
私が一番恐れていたことが…

ことの発端は、一匹の雉(きじ)だった。

天探女(あまのさぐめ)が、息せき切って飛び込んできた。
「鳴き声の憎らしい鳥が、門前に木にとまっています。
 射殺してしまうのがよろしいでしょう!」
荒々しい息もそのまま、急き込んで言う。

稚彦さまと私が門前に出ると、
門前の湯津杜樹(ゆつかつら)にとまっていた雉が、
「稚彦よ。
 なぜ、8年もの歳月がたっているのに復命しないのだ。」
と鳴いた。

私たちは、来るべきときが来たのを知った。
稚彦さまは、天神から賜った天鹿児弓(あまのかごゆみ)と天真鹿児矢(あまのまかごや)をつかんだ。そして、弓を引き絞り、雉に狙いを定めた。

「おやめなさいませ。
 天神から賜った神聖な弓矢で殺生など…」
私は、夢中で稚彦様を止めた。

「あなたも分かっているはず。
 この雉は天神からの使いだ。
 天神からの使いを、天神から賜った弓矢で射殺す。
 そうして初めて、私たちは本当の独立を勝ち取れるのだ。」

そう言うやいなや、稚彦さまは矢を放った。
矢は、雉の胸を射抜き、はるか天上まで飛んでいった。

「大丈夫だよ、姫。
 それとも、私が負けるとでも?」

私は、稚彦さまにすがり、その胸に顔をうずめた。
力強い胸の鼓動が聞こえる。
この鼓動が聞こえなくなる日など来ることはない!
この胸の暖かさが失われる時など絶対に来ない!!
一時、私はいつもの不安から解き放たれる。

でも、その瞬間、
力強く私を抱いていた夫の腕から力が抜け、
ガクっと、地面に膝をついた。

夫の背に手を回していた私の手に、
ドロっと、生温かいものが触れた。

血だ…!!

夫の背には、さっき放った天真鹿児矢(あまのまかごや)突き刺さり、
もう、物言わぬ亡骸に変わっていた。

私は、泣くのも忘れて、その場に立ち尽くした。
そして、一刻の後、自分でも信じられないほどの慟哭の声が喉をついた。
( 続   く )


今回のお話は、書紀の「第一の一書」に従って書いています。
下照姫、かわいそうでしたね〜〜〜(>_<)
でも、「ぱいん書紀」では、下照姫と抱き合っている稚彦の背に矢があたったことになっていますが、本物の書紀では、胸に矢が当ったことになってます。
いずれにしても、稚彦も下照姫も、精一杯生きたことは真実なのに、
結局は歴史の大きな渦に呑み込まれてしまったんですね…かわいそうに…
<ぱいんのつぶやき>

「ぱいん書紀」は、基本的に短編形式のつもりで書いてます。
どの回からでもお気軽に読んでいただけるように。(^^)
でも、この回に関しては、
やはり、前回の「天津彦根が語る」をお読みいただいた方が、
物語が分かりやすいと思います。
この回からお読みになられた方は、
ぜひ、あわせて前回の物語もお読みくださいませ〜



返し矢

「やはり稚彦(わかひこ)は裏切っていたのか…」

アマテラス様は憂い顔。がっくりと肩を落としてしまわれたわ。
ああ、なんてお気の毒…

「なにも落ち込むことなどありませんわっ、アマテラス様。
 稚彦(わかひこ)がだめなら、
 また別の誰かを遣わせばいいのです。」

私は、なんとかアマテラス様を元気付けようと、ことさら明るく言った。

アマテラス様は、ご長子・オシホ様を地上に降臨させるべく、
まずは、地上の世界を平定するために、稚彦(わかひこ)を遣わせたの。
お手ずから天鹿児弓(あまのかごゆみ)と天真鹿児矢(あまのまかごや)を稚彦に下賜されて、それはもう、満を持しての出発だったわ。
というのも、平定の使者を遣わすのは、稚彦が初めてではなかったから。

アマテラス様が最初に遣わしたのは、アマテラス様のご次男・天穂日命(あまのほひのみこと)様だったわ。
たいそう武勇にすぐれたお方だったにもかかわらず、
ついに復命は果たせず、次に送った天穂日命(あまのほひのみこと)様の息子・武三熊之大人(たけみくまのうし)様もダメ。
どちらも、今、地上を支配しているオオアナムチ殿に取り込まれてしまったの(>_<)

ここ、高天原じゃぁ、オオアナムチ殿を良く言う者などいないけど、私が思うに、あの天穂日命(あまのほひのみこと)様や武三熊之大人(たけみくまのうし)様が、復命もせず、オオアナムチ殿の元に居ついてしまったってことは、オオアナムチ殿にそれだけの魅力があったってこと。
私も一度、会ってみたいものだわ! きゃー!! (^^)
なぁ〜んて・・・

・・・・あれ〜?
ああダメダメ。
冗談にもそんなことを言ってる場合では…

稚彦が、8年たっても復命しないことに痺れを切らしたアマテラス様は、私の兄オモイカネと謀って、稚彦を糾弾するために雉(きじ)を地界に放ったの。

やがて地界から戻ってきたのは、雉でも稚彦でもなく、
血でべっとりと濡れた一本の矢。

なんと、アマテラス様が稚彦に下賜した天真鹿児矢(あまのまかごや)ではないの!
矢にべっとりと付いているのは、もしや雉を射抜いた血?

アマテラス様は、色を失って、

「もしこれが稚彦の邪心によって射られたものなら、
 稚彦は必ずこれに当って死ぬだろう。
 もし反対に、彼に邪心がないのなら、
 無事に免れるだろう。」

そうおっしゃって、その矢を地上に投げ返したわ。
きっと、それでもアマテラス様は、稚彦を信じたかったのよ。

でも、地上からはるかに聞こえてきたのは、稚彦の死を嘆く下照姫の声。
その、夫の死を嘆く泣き声は、本当に悲痛で、私は思わず耳を塞いだ…
それでも、それより悲痛だったことは、稚彦がやっぱりアマテラス様を裏切っていたという事実。
アマテラス様の嘆きようは、それはもう・・・

「ほほほ…」
あらぁ〜?
アマテラス様の声がする。
あぁ、そうだわ。
私ったら、アマテラス様の御前にいたんだっけ。

「ほほほ… 
 そなたと話してると心の憂いもどこかに飛んでいくみたい。
 そなたは、兄オモイカネ殿とも、
 父上タカミムスヒ様とも似てませんねぇ。
 まあ、お元気なところはそっくりだけれど。」

アマテラスさまは、ほんの少ぉ〜し愁眉を開いた。

アキツ媛、そなたも、もうすっかり大人になって。
 そろそろ、オシホとの婚儀を執り行わなければいけませんね。」

アマテラス様のお言葉に、私はササッと顔を赤らめた。
きゃー!! きっと、真っ赤っ赤のはずぅ〜
オシホ様は、父タカミムスヒ、兄オモイカネ、そしてアマテラス様が相談の上で勧めた許婚。
でも、そんなこととは別に、
私は、ずっとずっと前から、幼馴染でもあるオシホ様が大好きなのだー!

この世のものとは思えないほどの美貌。
あの瞳に見つめられると、私は、まるで魂を抜き取られた人形のよう。
これを、ヒトの世界では「恋」というらしい。(^^ゞ

そして吉日、高天原では、私とオシホ様の婚儀が盛大に執り行われた。
でも、私は幸せのあまり、まるで夢の中にいるようで。
婚儀のことはあまりよく憶えてないの。
憶えていることといえば、やたらに大きな父や兄の声だけ。
まあ、父も兄も、今日の日を喜んでいるのだから、
仕方ない、今日のところは許してやるとするかっ!

オシホ様は、地上に降る運命の子。
私も一緒に降る覚悟は出来てるわ。
オシホ様のことは、私が守ってみせる!

でも、天浮橋(あめのうきはし)から、オシホ様と共に見た地上は・・・
( 続   く )


今回のお話も、ほぼ、書紀の「第一の一書」に従って書いています。
前回の下照姫も哀れでしたけど、自分が信頼し、弓矢を手ずから下賜して送り出した稚彦に裏切られたアマテラスの衝撃はいかばかりだったでしょう…!
おまけに裏切りの証拠が、自分が下賜した矢だったって、本当にドラマティックですよね〜〜〜
そのまま描くと、暗くなりすぎなので、今回の語り手は、アキツ媛ちゃんにお願いしました。(^o^)丿
<ぱいんのつぶやき>

新しく「ぱいん書紀」を、お読みの方々!
オモイカネ神のキャラは、
「神代上」の天石窟の章を引き継いでいます。
ぜひ、こちらも合わせてお読みください!(^。^)
ちなみに、タカミムスヒさんの初登場は、
「神代上」の大己貴神の国作りの章です。
お時間があればこちらもぜひ〜〜〜♪



落ちた喪屋
「お願い… 連れて行かないで…」
私は夫の身体に取り縋った。

稚彦さまの父君の仰せです。
 葬儀は天上で行うようにと!」

まるで、穢れたものでも見るような一瞥をくれ、
私の腕から、稚彦さまの身体はもぎ取られた。

いったい私たちがどんな罪を犯したというのだろう…
天神の壮男と、国神の娘が愛し合う…それが罪なのだろうか?
だったら、天神スサノオ様と国神の娘との間に生まれたお父様は?
オオアナムチも罪の子なの?

「葬儀に出席しようじゃないか!」
兄が言った。

「お前は稚彦殿のたった一人の妻。
 8年もの間、睦みあった最愛の女ではないか。
 稚彦殿も、きっとお前を待っておられるはずだよ。」

稚彦様そっくりの面差しで、そう言う兄に、
「お兄様も一緒に行ってくださいますか?」
私は、縋り付くように訊ねた。

「父オオアナムチが命がけで平定したこの国。
 この葦原中国(あしはらなかつくに)は、
 必ずや、天神たちに取って代わられるだろうよ。」

兄は、私の問には答えず、そう言った。

「なんという不吉なことを…!
 お父様がどんなご苦労をして、
 ようやく、この国を平定したかは、
 お兄様が一番よくご存知ではないですかっ!」

思わず声を荒げる私に、

「聞くのだ、下照姫。
 いつの世も、負けるのは卑しい者とは限らない。
 それは、稚彦殿のことを見ても分かるだろう?
 だが、負ける者にも意地がある。
 天神たちに、一泡吹かせてやろうじゃないか!」

兄が何を考えているのかは分からない。
ただ、私はもう一度だけ夫に会いたかった。
たとえ、物言わぬ骸だとしても…

私たちは天上に上った。
兄、高彦根を見て、
天上の誰もが目を見張った。
そう、兄は夫に生き写しだったから。

稚彦さまの父君もご兄弟も、
「わが君は亡くなっておられたのではなかったのだ。」
そう言って、兄の着物に取り縋って泣いて喜んだ。

が、兄は、
「何を言うー!
 私は、葦原中国の王オオアナムチの息子、高彦根だっ!
 親友が亡くなったから、弔いにやって来たというのに、
 死人と間違えるなど、なんと禍々しいこと。」
そう言うなり、
太刀を抜き、喪屋を切り伏せてしまった。

喪屋は、地界にまで落ちて、大きな山を作った…

そんな乱暴なことをしたというのに、
兄の姿は神々しいほど美しく、
その姿は光り輝いて、はるか向こうの丘、そして、谷にまで照り映えた。

その場にいた皆が歌った。
「なんと美しい壮男よ!」と。

振り返った兄の目が言っている。
「妹よ。これでいいだろう?」と。

そう。
これでいい。
地界に落ちた喪屋。
稚彦さまは、天上ではなく地界に葬られるのだ。
あの方の望んだ通り!

そうして、天神に逆らった私たち兄妹は、歴史のかなたに去った、永遠に。

たとえそれが運命だとしても、
父の命とも言える葦原中国が天神に奪われないことを願いながら・・・
( 続   く )


今回のお話、書紀原本では、全く意味が分からず、実はもう飛ばしちゃおうかな〜なんて思っていたのです。(^^ゞ
だって、友達のお葬式のために、わざわざ遠方まで出向いたにもかかわらず、その亡き友人に似てると言われたからといって、いきなり太刀を抜いて喪屋を切り捨てるというのも意味が分からなかったし、そんな兄を賛美した歌をうたった下照姫の気持ちも全く分かりませんでした。いくら、現代と古とは常識が違うといっても、それでは物語を書きようもなかったんです…(+_+)

でも、ふとしたはずみに、高彦根の喪屋を切り伏せるという行動と、下照姫の行動が、まるでパズルでもはめるようにパチっとはまって、このような物語になりました。

よって、今回の物語は、書紀どおりに話は進んでいますが、ある意味、完全なぱいん解釈の「ぱいん書紀」です〜〜〜★
<ぱいんのつぶやき>

今回は、新春第一号というのに、またまた悲しいお話になりました。
でも、ちょっぴり天神たちに復讐してやって、
胸がスカっとしたと思いませんかぁ〜?
前号から載せている系図ですが、
「とぶとりの飛鳥」の万葉さんに作ってもらいました。
やっぱり系図があると、物語が読みやすいですよね〜☆
万葉さん、ありがとう!(^o^)丿

最後になりましたが、
本年も、ぱいん&ぱいん書紀を、どうぞご贔屓に〜〜〜♪



オオアナムチの最期
フツ様がよろしいでしょう。」

なんということだ。
神々がこぞって口にしたのは、オレの名ではなかった。

「フツだけが大丈夫(ますらお)で、
 この私は大丈夫(ますらお)ではないのですかっ!」
オレは思わず叫んだ。

オレの名はタケミカヅチ
その昔、イザナミ様が、火の神を生んだことで身罷られた。
夫イザナギ様は、妻を奪われた憎しみから、生まれたばかりの我が子神、火の神・カグツチを怒りに任せて斬ってしまわれた。
火の神・カグツチを斬った剣の切っ先から滴り落ちた血…その血から化身したのが、フツの祖父君・ネサク殿。
そして、剣の鍔から滴った血により化身したのが、我が曽祖父・ミカハヤヒ殿だ。

剣と血。
それに運命付けられるように、オレたちは互いに武勇を競い合うように生い育った。
ライバルでもあり、共に最も近しい同胞。

フツ一人に行かせるなんて出来るもんか!
それが、フツ一人が功名を立てることへの悔しさなのか、フツにかけられた葦原中国平定の重責を分け合ってやりたい思いやりだったのか…根が単純にできているオレには分からない。
が、フツ一人を葦原中国へやることなんかできない!

「はっはっは!
 なんとも勇ましい大丈夫ぶりではないか、アマテラス殿。
 ここは、フツ神とタケミカヅチ神、
 二神を派遣することにいたしましょうぞ!」

タカミムスヒ様のツルの一声。
オレとフツは葦原中国平定の旅に出た。

オレたち2人が降臨したのは、出雲国の五十田狭(いたさ)の小汀(おばま)

オレは、十握剣(とつかのつるぎ)を抜いて逆さまに地上に突き立て、その切っ先の上にあぐらをかいて、この地界を支配しているオオアナムチとやらいう神に訊ねた。

「お前は、この国を天神に献上するか、どうか。」と。

いきり立つオレを静かに見つめて、
「お前たちは、私に従うためにやってきたのではないのか?
 そんなことでは、お前たちにこの国を許すことはできないなぁ。」
オオアナムチは言った。

「その旨、天神にお伝えしてよろしいのでしょうな?」
フツも静かに言った。
そして、いまだいきり立つオレを押さえて、オオアナムチの言葉を高天原に復命した。

タカミムスヒ様の策は、あの大声でも分かるように単純明快。

「おぉおぉ、それはもっともであるな。
 オオアナムチ殿の言うところは至極もっとも。
 では、筋道を立てて、改めて命じよう。
 オオアナムチ殿の治めていることのうち、
 顕露(あらわ)のことは、我が子孫に、
 幽界の神事は、オオアナムチ殿が司るというのはどうであろう。
 その身分にふさわしい立派な宮を建て、
 海を行き来して遊ぶための天鳥船(あまのとりぶね)も進呈しよう。
 お気に入りの天穂日命(あまのほひのみこと)は、
 祭祀を司るものとして、そのまま身に侍らせてもよいぞー!」

オレたちは、再び出雲に降り、
タカミムスヒ様の言葉を、オオアナムチに伝えた。

「天神の仰せはまことに懇ろ。
 どうしてその勅命に背き申すことでございましょう。」

オオアナムチは、前と変わらず、静かにそう答えた。
自らの運命を悟っていたように・・・

オレたちが天に復命している間に、
子神の事代主神(ことしろぬしのかみ)にも、ことの是非を尋ねたそうだ。
事代主神の答えは、オオアナムチの期待に反して、

「父神よ。
 どうぞこの国を献上なさいませ。
 私ももちろんそれに従います。」

との、なんとも覇気のないものだったらしい。

「私はこの矛でもって、
 この国を平らげるという功業を成し遂げた。
 天神も、この矛で国を治められれば、
 かならず無事に治めることができるだろう。」

オオアナムチは、そう言うと、統治権の象徴ともいうべき広矛をオレたちに託した。

この葦原中国を平らげることが、どれほどの偉業であったことか、ここに降臨してみればすぐ分かる。
同じ武人として、今、オオアナムチの心に去来している思いも…
だが、あくまでも静かにオオアナムチは言った。

「私は退いて、幽界の神事を司ることにいたしましょう。」と。
それは、静かではあるが、単純なオレの頭にも心にも染みとおるような悲痛な叫びだった。
( 続   く )


フツやタケミカヅチの系譜については諸説があります。
イザナギが、火の神カグツチを斬った剣の切っ先や鍔から化(な)り出でた神の子孫ではあるそうですが、その神の何代目の子孫になるのかは、諸説ありです。
ぱいん書紀では、孫、ひ孫とさせていただきました・・・(^^ゞ
<ぱいんのつぶやき>

とうとう、オオアナムチが平定した葦原中国は、
そっくり天神たちに奪われてしまいましたね・・・(>_<)
オオアナムチの父は、天神のスサノオですし、
一緒に国作りをしたスクナヒコは、
タカミムスヒの息子です。
どうして、この二人が統治者ではいけなかったんでしょうか?
この謎は、ぱいんには解けません〜(+_+)



ニニギの誕生
まあまあ、みんな、なんて湿っぽいのかしらぁ〜
葦原中国(あしはらなかつくに)平定の功労者、あのお元気なタケミカヅチ坊やも、やけにぼんやりしちゃって〜
オシホ様にいたっちゃぁ、まるで放心状態ではないの!

まあ、それも仕方ないわねぇ。
今、オシホ様の奥方・アキツ媛は出産の真っ最中。
生まれてくるはずの子神のことやら、地上の王たる重責やら…
あの方の細い肩には持ちきれないかもねぇ〜

「アメノウズメ殿ぉ〜〜〜」
相変わらず、あの大声はオモイカネ神ね。
ホント、いつまでたっても騒々しいわねぇ

「生まれましたぞぉぉぉぉ。
 我が妹・アキツ媛とオシホ様の子神が!
 なんともはや、神々しいまでに美しい子神ですぞぉぉぉ」

神なんだから、神々しくて当たり前だっちゅうに!

でも、私はアメノウズメ。
そんなことおくびにも出さずに、婉然と微笑んで、

「それはおめでとうございます、オモイカネ様。
 で、お子神は、男の子でしたの? それとも女の子?」

「それが、玉のような男の子だったのでござるよ。
 アマテラス様も大喜びで、
 お孫様である生まれたばかりの子神ニニギ様を
 地上に降らせると言い出されましてなぁ・・・」

「まあ、
それはタカミムスヒ様も大喜びでいらっしゃるでしょうね。
 なんといっても、
子神はタカミムスヒ様のお孫様でもいらっしゃるんですもの。」

いつもは私にお熱のオモイカネ神も、さすがに、この事態の急展開に、気もそぞろっていう感じ。
言うだけ言うと、そそくさと帰って行っちゃった。

それにしても、タカミムスヒ様も策士よねぇ
血を分けた孫君を地界への降臨の主役に据えるために、

「これで、愛しいオシホ殿をずっとお手元に置いておけますぞぉ〜!」

なんて、散々、アマテラス様を焚き付けたんでしょうねぇ(+_+)
アマテラス様も、どうもオシホ様には弱いから・・・

わ、そうそう、私もこんなことしてられないわ。
アマテラス様、オシホ様の元に、お祝いに参上しなくては!

と、勇んで来てみたものの、オシホ様って、父君になられたというのに相変わらずねぇ〜
ホント、存在すること自体が奇跡のような美しいお方なんだけど。
覇気がないっていうか、なんていうか・・・
ご自分の代わりに、子神ニニギ様が地に降るっていう意味が、分かっていらっしゃるのかしら〜?

「アメノウズメ殿。お久しぶりね。
 今日は、丁寧なお祝い言上ご苦労さま。」

はぁ〜 アマテラス様も相変わらずお美しいわネェ

「今日は、そなたに折り入って頼みたいことがあるのです。
 すでに聞き及んでいると思いますが、
 フツ神、タケミカヅチ神の二神の働きで、
 ようやく平定された葦原中国(あしはらなかつくに)に、
 このたび、君主としてニニギを降らせることになりました。」

アマテラス様は、ちょっと一息入れると、さらに、

「ニニギと共に、
 そなたも一緒に行ってもらいたいのです。
 そして、ニニギを守ってやってもらいたいのです。
 天児屋命(あめのこやのみこと)、太玉命(ふとだまのみこと)、
 石凝姥命(いしこりどめのみこと)、そして玉屋命(たまやのみこと)も、
 一緒に、地界へ派遣するつもりです。」と言った。

もちろん、私に異存はないわ!
キャー!! 地界にはどんな冒険が待っているのかしら〜?
血沸き肉踊るって、こんな感じを言うのかしらネェ〜!

「謹んでお受けしますわ、アマテラス様。」

長い付き合い。
しとやかに手をついた私の胸の内などお見通し!
というように、アマテラス様は婉然と微笑んだ。

アマテラス様は、地上に降る孫君ニニギ様に懇ろにお声をかけられ、儀式は粛々と進む。
いっつも思うんだけど、儀式って退屈なものねぇ〜
「ふわぁ〜」とあくびを噛み殺した時、

「一大事でござるぅ〜〜〜!」

血相変えて、オモイカネ神が飛び込んできた。
な、な、な、なぁに?
いったいどうしたって言うのーーーーー?
まっ、オモイカネ神のおかげで、眠気は吹っ飛んだんだけど・・・
( 続   く )


ここのあたりは、書紀の本文ではかなりあっさりと述べられるだけなので、面白いエピソードがたくさんある書紀の「第一の一書」に従って、物語を展開しています。
ただ、地界に降るのがオシホからニニギに代わったことについて、タカミムスヒの策略があった・・・というところはぱいんの脚色です。
が、いきなり今までの予定を変えて、まだ生まれたばかりのニニギを降すことについては、なにかの事情があったのでは・・・ということで、こういう解釈にしてみました〜(^。^)
<ぱいんのつぶやき>

今回は、久々に、お馴染みのオモイカネ様、
アメノウズメちゃんが登場しましたね〜(^o^)丿
このところ、ちょっぴり悲しい展開のお話が多かったので、
今回は、ウズメちゃんの語りによって、
明るい雰囲気にしてみました〜〜〜♪



ニニギの降臨
葦原中国(あしはらなかつくに)は、
 我が子孫が君主となるべき国である。
 汝、皇孫よ、
 これから行ってこの国を治めなさい。
 さあ、行きなさい!
 天つ日嗣が栄えるであろうことは、
 天地とともに永久に続き、
 窮まることはないであろうー!」

アマテラス様の言揚げに、高天原中が沸きました。

アマテラス様は、八坂瓊曲玉(やさかにのまがたま)、八咫鏡(やたのかがみ)、草薙剣(くさなぎのつるぎ)の三種の宝物を、降っていくニニギ様に、お手ずから下賜されます。

そして、お供には、
天児屋命(あめのこやのみこと)様、太玉命(ふとだまのみこと)様、石凝姥命(いしこりどめのみこと)様、玉屋命(たまやのみこと)様、そして、アメノウズメ様を配されました。

あの「天の磐戸」のときの懐かしいメンバーです。
アマテラス様も、あのお苦しいときを、共に乗り越えた神々には特別のご信頼をおいているのでしょうか?
それとも、はからずも「迷い」という神にあるまじき姿を見せた、これらの神々を内心、疎ましく思っての追放なのでしょうか・・・?
さすがに、侍女として長年お仕えしているわたくしにも、アマテラス様のお心は分かりません。

あら? あらあらあら。
アメノウズメ様ったら、眠そうだこと・・・

只今は、ニニギ様を降臨させるための儀式の真っ最中でございます。

まあ、アメノウズメ様、
今にも、上の瞼と下の瞼がくっつきそう。
儀式とは、とかく長くて退屈なもの。
ウズメ様だけでなく、他の神々も、あくびを噛み殺すのに必死になっていらっしゃる。

と、そんな昼下がりのけだるい空気を切り裂くように、
「一大事でござるぅ〜〜〜!」
血相変えて、オモイカネ神様が飛び込んでこられました。
いったい何事が起きたのでしょう…!

「私が綿密な謀をめぐらせたところ・・・」
まあ、オモイカネ様の口癖。
でも、思いっきり走ってこられたのか、息が切れ、次の言葉が出てきません。

しばらく息を整えたオモイカネ様のお話によりますと、オモイカネ様は、万一にも、天孫ニニギ様の道中に不穏なものがないよう、出発の前に先駆の者を、遣わしていたというのです。
さすが、高天原一の知恵者、オモイカネ様ですわね。

で、その先駆の者が帰ってきて報告するには、
なんと、ニニギ様の行く手には、鼻の長さが七咫、背の長さが七尺余り、口のわきが光り輝き、目が八咫鏡のように赤々とほうずきのようにも見える神が、居座っているというのです。

いったいなにゆえでしょう…?
おそろしい・・・

「他の者ではダメでしょう。
 アメノウズメ殿。
 そなたが行って訊ねてきておくれ。」

そう言うと、アマテラス様は、そっと、わたくしに目配せをなさいました。
わたくしもウズメ様に続きます。

「そなたも一緒に行ってくれるの?
 そうねぇ〜。
 女同士の方が、きっと怪しまれないわね。」

そして、
「女にはねぇ〜
 男と違ったやり方があるのよ。
 機先を制したものが勝ちなのよ!」

そう私の耳にささやき、ウズメ様は、
スルスルと、着ているものを脱がれました。
そして、見事な胸もあらわに、裳の紐もお臍の下にまで押し下げてしまわれたのです。
ウズメ様、いったいなにを〜?

そして、あろうことか、その怪しげな神の前で、嘲笑うかのように舞い始めたのです。
気を呑まれて呆然としている神に、

「アマテラス様の御子が、
 今お通りになられようとする道に、
 こうして立ちふさがっているお前はいったい何者だ。
 訊ねたい!」

毅然として、そうおっしゃられました。

「アマテラス様のお子神が、
 今、降臨されるとうかがったので、
 お迎えするためにこうしてお待ちしているのだ。
 私の名は、猿田彦(さるたひこ)というのだ。」

「では、お前が私を先導してくれるのか、
 それとも私がお前に先行しようか?」

「私が先導申し上げる。」

「では、お前はどこに向かって行こうというのか。
 お前について行くと、
 皇孫はどこにお着きになることになるのか。」

「天神の御子は、
 筑紫の日向の高千穂にお着きになろう。
 私の方は、伊勢の狭長田(さなだ)の五十鈴川の川上に行く。」

気を呑まれたのは、わたくしの方でございます。
わたくしは、このお二人のやり取りを、ただ、阿呆のように見ているだけでございました。

アメノウズメ様は、事の次第をアマテラス様にご報告されました。
そして、、いよいよ、皇孫ニニギ様は、天磐座(あまのいわくら)を押し離って、天八重雲を押し分け、威厳に満ちて、道を押し分け押し分けて、天下って行かれます。

のちに、猿田彦神を、伊勢の五十鈴に送り届けられたウズメ様は、ニニギ様から、この神の名を姓氏として賜り、以後、そのご子孫は、猿女君(さるめのきみ)と名乗るようになったそうでございます。

奔放なウズメ様も、落ち着くところに落ち着かれたということでしょうか。
いったいなにが、ウズメ様のお心を動かしたのでしょう〜?
わたくしは、ここ高天原で、アマテラス様と共に、ニニギ様の行く手が、幸多かれ、と願うばかりでございます。
(葦原中国の平定 完)


前回に引き続き、今回も日本書紀の「第一の一書」に従って、物語を展開しています。
ここは、原文のままでもかなり読み応えのあるところなので、特にぱいんが作った部分はなくて、原文のままに物語を進めました。
<ぱいんのつぶやき>

私、恐ろしいことに気付きました。
原文が面白いところは、どんな面白いお話が書けるかと思いきや、
原文が面白いと、ドラマティック日本書紀としては、それ以上のお話は書けないということに!
どんなにがんばっても、原文に負けちゃうんですよね〜〜〜(+_+)
楽しみにしてくださっていた皆さま、ごめんなさいぃぃぃ。
さて、ものすごく長くなってしまった「葦原中国の平定」の章も、今回が最終回です。
次回からは、ニニギの地界での活躍が始まります。
どうぞ、お楽しみに〜〜〜(^o^)丿

ps.今回の語り手の侍女さんは、
「天石窟(あまのいわや)」でも語ってくれていた、あの侍女さんですよ〜

( 天孫降臨へ続く )


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