スサノオの暴虐
まあ、しっかしイライラするったら!
だいたいあの姉弟は真面目すぎるのよねぇ〜!
心を証明するって一体なんのこっちゃ?
血を別けた姉と弟、
お互いをしっかりと抱きしめあったら何もかも解決するんじゃぁないのぉ?
誓約(うけい)だなんて、一体何をやってることやら…

誓約(うけい)はスサノオくんの勝ち。
スサノオくんが潔白な心であることは証明されたわけなんだけど…

姉君である我が日の神アマテラスさまに会いたい一心で訪ねてきたスサノオくん、
こうまで姉君に疑われたとあっちゃぁ、そりゃ、荒れに荒れたわよ。
せっかく私が慰めてあげようと思ったのに、
私のナイスバディーも目に入らないとは、まあなんと哀れな…

アマテラスさまは、保食神(うけものかみ)から授かった稲をそりゃぁ大切にして、
天狭田(あまのさなだ)と長田(ながた)で育てていたんだけど、
スサノオくんは、せっかくアマテラスさまがまいた種の上に、
まぁ〜た種をまいちゃって、稲が育たないようにはするし、
秋になって、やっと稲が収穫できるようになると、
今度は、天斑駒(あまのふちこま)を田んぼの中に放っちゃって、
田んぼをめちゃめちゃにしちゃったのよねェ。

どーにかしてくれよ!と神々全員ブーイングなんだけど、
アマテラスさまは、自分がスサノオくんを追い詰めちゃったって思い込んでるもんだから、
なぁ〜んにも注意も出来ないし、
結局スサノオくんを野放しにしてたってわけ。

そうそう、こんなこともあったわ。
アマテラスさまは、秋になると穀物の収穫を寿いで、
新嘗(にいなめ)をするんだけど、
スサノオくんったら、その日を事前にキャッチして、
あろうことか、アマテラスさまが新嘗(にいなめ)をする御殿に撒いちゃったのよ。
なにを?って?
いやぁ〜ン…私の口からは言えないわ。
つまりは、皆さんがおトイレでするアレを、よ!
何も知らないアマテラスさま、全身に汚物をかぶっちゃって。
そりゃぁ、もう、ひどい落ち込みようだったわ。

まあ、どっちもどっちの姉弟ではあるわねぇ…

「アメノウズメ殿ぉ〜〜〜!」
このすっごい大声は、思兼神(おもいかねのかみ)ね。
このオッサンもねぇー、私がちょっと流し目をくれてやったら、
自分に気があるものだと思い込んで、
いっつもあの大声で、「アメノウズメ殿ぉ〜〜〜!」なのよねぇ。
うっとうしいやっちゃ。

「一大事でござるぅ〜!」
このオッサンの「一大事」がホントに一大事だったことなんてあるかしら。
でも、私はアメノウズメ。
そんなことおくびにも出さずに、婉然と微笑んで、
「思兼神(おもいかねのかみ)さま、何事です?」
って、言おうと思ったんだけど、
途中で絶句。
だって、だって、夜でもないのに、あたりはだんだん真っ暗になってきて…

「そのことでござるよ、アメノウズメ殿。」
と、思兼神(おもいかねのかみ)の説明によると、
どうやら、またスサノオくんがやらかしたそうなのよ。

今度は、天斑駒(あまのふちこま)の皮を、生きたまま引ん剥いちゃって、
その遺骸をアマテラスさまの御殿の屋根に穴を開けて投げ入れたんだって。

血まみれの天斑駒(あまのふちこま)を見て、アマテラスさまは卒倒して、
もう、とうとうすべてのことが嫌になっちゃったってことで、
天石窟(あまのいわや)に入って、
磐戸を閉ざしてこもってしまったっていうことらしい。

「善後策を協議するため、八百万の神々は、
そろって、天安河(あまのやすかわ)のほとりに集まれということですぞ。」
さすがに今回は、ホントに一大事ね。

アマテラスさまの照らす日の光がなくちゃぁ、万物すべてが滅びちゃうもんね。
うわぁ〜〜、えらいこっちゃ!
( 続  く )


皆さまお楽しみのアメノウズメちゃんの登場です。(^^ゞ
前回は少し暗めの終わり方だったので、今回は、スサノオくんの悲しい暴虐のシーンではあるんですけど、アメノウズメちゃんに語ってもらうことによって、コミカルなお話にしました。
といっても、天鈿女命(あめのうずめのみこと)が、こんなコミカルな人だったなんて傍証はありませんし、思兼神(おもいかねのかみ)がオッサンであったかどうかも書紀を見る限りでは分かりません。
もちろん「ござる〜〜」なんて言ってたかどうかも…(多分言ってなかったでしょう^^;)
少しでも皆さまにお楽しみいただける工夫と思って、どうぞお許しくださいませm(__)m
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常世の闇
アマテラスさまが、天石窟(あまのいわや)にこもってしまわれてから、
私たち八百万の神々は、
天安河(あまのやすかわ)のほとりに集まって、喧々諤々協議をしたけど、
その間も、日の光はなくなり、
世界は常闇となって、昼夜の交代も分からなくなってしまったわ。

たかが姉弟喧嘩で、こうまで人に迷惑をかけるのもどうかと思うわよぉ!

「私が綿密なはかりごとをめぐらしたところ…」
思兼神(おもいかねのかみ)の声。
このオッサンの綿密なはかりごともなぁ…当てになるんだか…
周りのそんな雰囲気をものともせず、
「すばらしい策があるのでござる!」

まあねぇ〜、
このまま手をこまねいていても仕方ないということで、
自信満々の思兼神(おもいかねのかみ)の策を試してみることに。

まず、常世の長鳴鳥(とこよのながなきどり)を集めてきて、
いっせいに長鳴きをさせ、
手力雄神(たちからおのかみ)をあらかじめ磐戸(いわど)のわきに、
中から見えないように立たせておく。

天児屋命(あめのこやねのみこと)と、太玉命(ふとだまのみこと)は、
天香山(あまのかぐやま)からたくさんの真坂樹(まさかき)を根ごとこじ抜いてきて、
上の枝には八坂瓊(やさかに)の五百箇(いほつ)の御統(みすまる)をかけ、
真ん中の方の枝には、超巨大な八咫鏡(やたのかがみ)をかけ、
下の枝には青和幣と白和幣をかけ、ご祈祷をする。

そこまでの準備が終わると、
「アメノウズメ殿、あなたの出番でござる。」
思兼神(おもいかねのかみ)の声。

え? 一体私に何をしろと言うのー?
「ほれ、いつもの。
あの、あなたの美しい舞を、思いっきりセクシィ〜に舞ってもらいたいのでござる。」
このオッサン、何を言うやら。

この鼻の下の長いオッサンならいざ知らず、
女性のアマテラスさまが、セクシィ〜な舞で釣られるもんかっ!
自分の趣味で言ってんじゃないのぉ?

「いやいや、私には綿密なはかりごとがあるのでござる。」
あんまり自信満々に言うもんだから、
他の神々も、この思兼神(おもいかねのかみ)の言うことを信じたというか、
ただ、どの神々も鼻の下をながぁ〜くしたというか、
結局、私は天石窟(あまのいわや)の前で舞を舞うことに…

まあ私の舞を見て、
いつもは、しかつめらしい顔をしている神々まで、
鼻の下をながぁ〜くしている様は、決して嫌いじゃないんだけどね。

かくして、常世の長鳴鳥(とこよのながなきどり)は一斉に美しい声で鳴き、
天石窟(あまのいわや)の前に立てた真坂樹(まさかき)には、
美しい連珠がきらめき、八咫鏡(やたのかがみ)が輝き、
青和幣や白和幣がはためき、
ふんだんに美酒が振舞われ…

私たち八百万の神々の一大エンターテインメントが始まったのでありましたぁッ!

で、宴もたけなわになった頃、
私アメノウズメの舞が。
手には矛を持ち、真坂樹(まさかき)を頭に飾り、
薄物の衣装から肌がすけるように、
思いっきり扇情的に、エロティックに舞う私。
まさに、神が宿る瞬間!
そんな私を篝火が鮮やかに映し出したわ。
もう神々たちもノックダウン!っていう感じかしら。
やんや、やんやの大喝采!

さあ!
アマテラスさま、いつまでもスネてないで、
いい加減、出てきてちょーだい!
( 続  く )

今回も語り手をアメノウズメちゃんにしたので、前回の続きのようになってしまいました。(^^ゞ
このウズメちゃんのダンスのシーン、
古事記では、「胸乳をさらけ出し、裳の紐を陰部までおし下げた。」とあります。
なにもそこまで…ウズメちゅわぁ〜ん!^^;
書紀では、「たくみにしぐさをした。」と書かれてあります。
たくみにしぐさって、上手に踊ったということ? それとも、何か妖しい意味でも・・・
ぱいんは、官能小説家ではないので、そのあたりのところは皆様のご想像に任せます。
ともあれ、さあ、アマテラスさまは出てきてくれるでしょうか・・・?
このお話のもう一人の主役、オモイカネ様の策略は成功するのか・・・!
てんやわんや、大騒ぎの神々をよそに、天石窟(あまのいわや)にいるアマテラスさまは、どんなことを考えているのでしょうね。
書紀にはそのあたりの心理的な部分は語られていませんが、そういうところを想像するのが物語の醍醐味ですよね。

<ぱいんのつぶやき>

日記でも、ボヤいているのですが、ぱいんは今、肩凝りに悩まされております。
どうも、その原因は、オモイカネ神さまを、あんな変なおっちゃんにしてしまった祟りではないかと・・・
まさに、誰かがずっしりと肩の上に乗っかっているような感じなんですぅ〜!(>_<)
で、オモイカネ神さまの名誉回復のために、ひとこと。
オモイカネ神さまは、高天原(たかまがはら)の智恵者といわれていて、冷静沈着な智恵の神様なのだそうです。
オモイカネさまぁ〜、ホントにごめんなさい・・・ どうか、もう、私の肩の上から降りてくださいませ〜!
・・・といいつつ、やっぱり今回も変なおっちゃんにしてしまっている私。まだ肩凝りとの戦いは続くのかしら(*_*)

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高天原追放

「外が騒がしい。何があったのかしら。
 私が天石窟(あまのいわや)にこもっているから、
 外は、長い長い夜が続いているはずなのに…」
アマテラス様がつぶやきました。

ここは天石窟(あまのいわや)の中。
アマテラスさまは弟君スサノオ様と仲違いをされて
それはそれは、すったもんだの末、
アマテラス様を恨んだスサノオ様が暴虐の限りを尽くすという、
最悪の事態となり、考えあぐねたアマテラス様は、
とうとう全てを投げ出し、ここ天石窟(あまのいわや)にお隠れになったのでございます。

私もご一緒に天石窟(あまのいわや)に侍っております。
わたくしは、アマテラス様の侍女で、これが「侍女のお仕事!」なのでございます。

思えば、アマテラス様は、無私のお方で、
常にご自分のことよりも、この世のことを考えておいででありました。
わたくしが初めてアマテラス様にお会いしたのは、
アマテラス様が、この高天原(たかまがはら)に上ってこられてすぐの頃でございます。

アマテラス様はまだあどけないながらも、それは美しい少女でございましたが、
もう、その頃から天下万民のことを第一に想う、とてもご立派な日の神様でございました。
アマテラス様と同じ年のわたくしが、
父や母と離れての宮での生活で、父母を恋しがり泣いたりいたしましたときには、
アマテラス様は、同じ年だというのに、わたくしを優しく抱きしめて、
でも、同じ年という気安さもありましたのか、
よく、お父様のイザナギ様、お母様のイザナミ様のお話もしてくださいました。
そして、やんちゃな弟君スサノオ様のお話も。

そのご姉弟が、こんな悲しい仲違いを…
アマテラス様は、天下万民にはこよなく慈しみを注がれますが、
ごく親しい者に対しては、どのように愛を注いでいいのか、
その方法をご存知ではなかったのでございましょう。

「わたくしが見て参りましょうか?」

わたくしは、アマテラス様がうなづかれたのを確かめて、
磐戸(いわど)を薄目に開け、そっと外を覗きました。

わたくしのすぐ後ろから、アマテラス様も外を覗いています。
輝く日の神様といっても、わたくしと同じ年、
そのようなお茶目な一面もおありになるアマテラス様なのでございました。

天石窟(あまのいわや)の前では、
アメノウズメ様の例のあられもない舞が繰り広げられているご様子。

「弟もあのような女人が好きなのかしら…?」

後ろでアマテラス様のつぶやきを聞いたような気がしたとたん、
わたくしは、大きな手の平で、思いっきり張り飛ばされてしまいました。
これは、手力雄神(たちからおのかみ)の手…?

わたくしは痛みと驚きで、気が遠くなりましたけれど、
アマテラス様のことが気がかりで、
懇親の力を込めて半身を起こし、後ろを振り返りました。
手力雄神(たちからおのかみ)様が、アマテラス様の手をとって、
無理やり、天石窟(あまのいわや)から引きずり出しています。

「わが日の神アマテラス様に向かってなんと無礼な!」

わたくしは叫ぼうと思いましたが、
あまりの恐怖で思うように言葉が出てきません。

アマテラス様を、天石窟(あまのいわや)から引きずり出されたとたん、
天児屋命(あめのこやねのみこと)様と、太玉命(ふとだまのみこと)様が、

「どうぞ、もう今後は、この中にお戻りにならないように!」

とおっしゃり、あっという素早さで、
磐戸の入り口に、しめ縄を引き渡してしまいました。

と、そこで、今まで張り詰めていた糸がぷっつりと切れるように、
わたくしは、意識を失ってしまったのでございます。

それからの数日間、
わたくしは、アマテラス様のことが気がかりで、
少しでも早く宮に戻りたいと、気ばかりは焦るのでございますが、
あまりのショックのため、高熱が続き、
アマテラス様にはお目にかかれない日が続きました。

ようよう熱も下がり、アマテラス様の宮に戻ったとき、
私は、アマテラス様の信じられないようなお言葉を聞いたのでございます。

「弟スサノオの髪を抜き、手足の爪を抜いて、この罪をあがなわせ、
 この高天原(たかまがはら)から追放するように!」

「それで、よろしいのでございますか…?」

大勢の神々の居並ぶ中、
言葉には出せないまま、わたくしはアマテラス様を見つめました。
アマテラス様のお目には、何の感情も迷いも読み取ることはできませんでした。

いよいよ、スサノオ様が追放された日、
その日は、ちょうど霧雨が降る寒い日でございました。
スサノオ様は、青草を結って、笠と蓑を作っておいででございました。
そして、神々に最後の一夜の宿を請うておられるのですが、
どの神々も、冷たく拒否をしておいでです。

美形好みのアメノウズメ様は、思わずスサノオ様に手を差し伸べようとしたようですが、
思兼神(おもいかねのかみ)様に、コワい目で睨まれ、
手を引っ込めておしまいになりました。

いよいよ、スサノオ様が、天から地へ降っていかれます。
わたくしは、スサノオ様が神々から離れるのを待って、
そっと、お声をかけました。

「姉上さまのお心を疑ってはいけません。」

驚いたように振り返るスサノオ様の、
まだ血のにじんでいるお手をそっと押し抱き、

「あなた様は、このような、姉上さまの膝元で、手の平の上で、
 いたずらをしているようなお方ではありません。
 あなた様は、もっと大きな世界で、
 もっと大きなお仕事ができるお方です。
 姉上さまは、あなた様を解放してくださったのでございますよ。」

わたくしは、スサノオ様の目を見ながら、ゆっくりと言葉をつなぎました。
アマテラス様のお心が、スサノオ様に届くように。

スサノオ様は、まだ驚いたように、わたくしを眺めておいででしたが、
それから、カラっと微笑まれました。
それは、もう何の憂いもない、男らしい爽やかな笑みでございました。
( 天の石窟 終わり )


今回の語り手であるアマテラス様の侍女さんは、完全にぱいんの創作です。

アマテラス様やスサノオ君に語ってもらうことも考えたんですけど、
ご本人に語ってもらうと、すべてを語ってしまうことになり、妄想の入り込める余地がなくなってしまいます。
物語である以上、登場人物の行動を描くことによって、
その人物がどのように考え、そんな行動をとったのか、
そのあたりの心理状態を妄想することって、物語を読む醍醐味ですよね。^^;

なので、今回は創作の人物である侍女さんに、この場の状況を語っていただきました。

今まで、こと、スサノオ君に関してはウジウジしていたアマテラス様が、
いったいなぜ、磐戸から出てきてからはきっぱりした態度が取れるようになったのか、
侍女さんが、高熱で宮の勤務をお休みしていた間に、どういう心理的な葛藤があったのか、
また、スサノオ君は、最後に侍女さんの言葉に何を感じて、高天原を去ったのか、
なにが、彼の憂いや迷いを断ち切らせたのか、

どうぞ、みなさま、それぞれ妄想してみてください。(^o^)丿

<ぱいんのつぶやき>

今回の物語のサブタイトル「侍女のお仕事♪」は、
観月ありささん主演の人気ドラマ「ナースのお仕事」から取りました。
何を隠そう、ぱいんは「ナースのお仕事」で、
高杉先生を演じていた藤木直人さまの大ファンなのでございます。
たぁ〜かすぎ〜っ♪ なんちって・・・(^^ゞ

 − 八岐大蛇(やまたのおろち)退治へ −


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